徒然日記 〜通訳案内士、ふたたび〜

コロナ禍休業を経て、通訳案内士業に復帰。7年暮らしたソウルが第2の故郷(22年3月帰国)。中学生の母。ミニマリストに憧れている。

2015年12月

ガイドの仕事を始めてよかったことのひとつは、歳上の女友達に出会えたこと。

私はロングツアーを中心に仕事をしているので、どうしても長期間家を空けることが多い。6歳の息子を夫と両親に任せてツアーに出ることに、正直なところ、まだ自分自身が迷いや不安をふっきれていない。なので、他人から(ツアーの仕事をすることについて)何か批判めいたコメントをもらうと、それはもうぐらんぐらんして、ひどく落ち込んでしまったりもする。

そんなとき、歳上の女友達はとってもとっても心強い存在。

自身もワーママだった女友達はこんな風に言ってくれる。
「それねえ、ただの嫉妬だから気にしなくていいよ」
「一緒にいる時間じゃないの。子供が尊敬できる母であるかどうかなの」
「私はね、小さかった子供が泣いても、熱出してても、仕事してた。つらいときもあったよ。でも絶対やめないって決めてた。そんな母でもね、息子たちは理解してくれてるよ。すごく優しい」

自分は子供のためにといったん仕事を辞めた決断をした女友達は、こういう風に話してくれた。
「子供が親を必要とする時間って、本当に短いよ。私は今になって、仕事続けておけばよかったって思ってる」
「子供が親を必要としなくなってからのほうが、ずっと長いんだよ。やりたいことがあるなら、絶対続けがほうがいい」

仕事も育児も人それぞれ。でも自分の選択にいつも自信を持てるわけではないから、そうやって言ってくれる歳上の女友達の存在は本当に心強くて、ありがたい。私も誰かに相談されたとき、彼女のたちのように温かく受けとめて、力強くサポートできる人でありたい。

(ちなみに、上のコメントは、私が言って欲しいと思っているのを察して、友人たちが言ってくれた言葉。 でも、もちろん働く母が正解!と言いたいわけではなく、あくまで、私には今のスタイルが合っている、というだけの話。ひとりひとりの性質、性分、それからそのときどきの状況によって、ありたい母の姿はちがって当たり前だと思う。声を大にして言いたいのは、どんなスタイルであれ、いろいろな事情や経緯があって、悩みや不安を抱えながらも、ひとりひとりが責任を持って選んでいるものであって、他人がとやかく言うべき領分ではない、ということ。な〜んだか日本の育児って余計なお世話やきたがる外野の声が大きいよね、とつねづね感じている)
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3年前に単行本で読んだ三浦しをん『神去なあなあ夜話』、家族で映画版『WOODS JOB!神去なあなあ日常』を見てみました。

大学受験に失敗し、彼女からも「距離を置こう」と言われてしまった都会育ちの主人公の勇気。たまたま見かけた林業研修プログラムのチラシの女の子が可愛かったのに心惹かれ、研修を受けることにする。1ヶ月の座学のあと、最も山奥にある中村林業で1年間の実施研修生活を送ることに。

すごくよかった。人が再生していく物語ってそれだけで好きだけど、この物語では失敗や挫折がシリアスに描かれてなくて、あくまでライトでポップな感じ。都会育ちのへにゃへにゃした男の子は、1年経ったあともなんか頼りない感じのまま。

(ちなみに映画版で勇気を演じた染谷将太っていう俳優さん、菊地凛子と結婚した実力俳優らしい。あごだけひょこっと突き出して「どうも」って挨拶するなよっとした感じとか、喜んでいるときのにやっとしたしまりのない表情とかが、ものすごくうまい)

映画の中で、中村林業の社長さんの曽祖父が100年前に植えた木を切り倒し、競売で高く売れ、「山中の木を全部売っちゃえば億万長者じゃないですか〜」と大はしゃぎする勇気を、社長さんと指導役の与喜が諭すシーンもすごくいい。

「そんなことしたら、次の世代、次の次の世代はどうするんだ」
「ずっと山を守れるように、木を植え続けることが大事なんだ」
「自分たちの商売は変なものだ。農業のように、自分が育てた野菜の出来を確かめることができない」
「自分たちの仕事の結果がわかるのは、自分が死んでずっとあとのことなんだ」

こういうの、すごくじ〜んとなる。サステイナブルとか、持続可能とか、そういう単語が生まれるずっと前から、ごくごく当たり前のことしてそういう価値観を共有してきた文化がそこにはあるんだろう。なんて、ちょっと映画見ただけで感激しちゃう自分をチープに感じたりもするのだけど。。

ちなみにこの映画、6歳の息子にもすごく面白かったよう。じっくり味わいたいシーンに質問攻めにされて閉口したりもするけれど笑、いい映画を一緒に楽しめる年齢になったんだなあと、ちょっと嬉しい。
 
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仕事柄、常に沢山の人と出会います。ちゃんと数えてないけれど、今年だけでも100人以上の方を日本各地に案内してきたはず。そのなかで、印象的だったお客さんの姿をご紹介。

⚪︎"I have a question"といつも父親に質問を投げかける女の子

夏に案内した、アメリカからの家族連れのお客さん。食が細くて歩くのが大嫌いな下の娘さんと、なんでもよく食べて歩くのが大好きな上の娘さん。2人ともブロンドの髪にブルーの瞳を持つ美少女。好奇心旺盛で、特に上の娘さんは何か疑問を持つと、"Dad, I have a question"とすぐにお父さんに質問を投げかける。そうするとお父さんはかならず娘さんの目をまっすぐ見て、"Yes. What is your question?"と、対話の体勢に切り替える。このやりとりがとても印象的だった。

⚪︎厳島神社の鳥居を見て、少年時代の思い出を語ってくれたイギリス紳士

ツアーで宮島の厳島神社を訪れたときのこと。これぞイギリス紳士の鏡!とも呼びたくなるような、つねに礼儀正しく物腰柔らかいイギリスからの初老の男性。満潮に近い時間帯、海に浮かんでいるように見える鳥居を見つめながら、こう話してくれた。

"Seeing this Great Trii Gate has been my dream since I was very young"

"My mother loved reading, so she always gave me books. It was the Christmas gift from my mother when I was ten, and I still have it now"

"It is the book with beautiful photos taken from all over the world. Although black and white, not in color, but I loved looking at these photos" 

"And this Great Trii Gate was one of them. I have always wanted to come here. Thank you so much for bringing me here"

本当に嬉しそうに微笑むイギリス紳士を前に、思わずじ〜ん。。こちらこそ、そんな素敵な話を聞かせてくれて、ありがとう!この仕事をしていてよかった。。。と心から思えた瞬間のひとつ。

⚪︎代々木上原のモスクで祈る親子の姿

先日都内を案内した、シンガポールからの家族連れのお客さん。ご両親と息子さんの1人は、熱心なイスラム教徒。もう1人の息子さんと娘さんはあんまり関心がない模様。

ツアーの最後に代々木上原のモスクにお連れしたのだけど、モスクに足を踏み入れた瞬間から3人のテンションが急にアップ。奥さんはこのモスクの歴史を調べてきたようで、嬉しそうに私に説明してくれた(本来私が説明すべきなんだけど笑)。イスラム教ではお祈りの前に身体を清めるらしく、礼拝堂に入る前に3人はお清めを。高い天井とステンドグラスが美しい礼拝堂のなかで、3人が一身に祈る姿はとても美しかった。 


う〜ん、心に残る瞬間はもっともっとあったはずなのだけど、残念ながら記憶はどんどん薄れていってしまうものみたい。でも、直接的に覚えていなくても、お客さんたちと過ごした時間は確実に私のなかにたまっていって、私の人生の一部を作り上げてくれている。いい仕事だなあ、と思います。 
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今日の築地市場案内をもって、2015年は仕事納め。お客さんはアメリカからの家族連れ。東京の前には、広島、京都、高野山、箱根と自分たちで周ってきたのだそう。

年末はいつもこうなのか、築地で迎える最後の年末だからか、昨日今日の築地は、いつにも増してどこもかしこも人、人、人で、場内も場外もごった返してました。築地市場の豊洲への移転は2016年11月。来年の今頃は、この人混みはまた築地の場外で見られるのか、それともみな豊洲の新市場に行くのか。築地市場案内はとても好きなツアーなので、移転以降はどういうツアーになるのかも気がかり。

ただでさえ狭い場内の通りが、今日はもうラッシュアワーの満員電車みたいに。とてもゆっくり説明をしてられる雰囲気ではなく、反対方向から突進してくる人や、お店の前で商品を見てとまっている人をよけつつ、なんとか魚市場を案内。

本来は青果市場、魚河岸横丁、場外市場も案内するのだけど、このあとお客さん自らお料理教室を予約しているとのことで、途中で切り上げ、TSUKIJI COOKING(これ今日初めて知ったけど、trip advisorでかなり高評価だった)の会場までお連れして、ツアー終了。 

そのあとは夫と息子を待ち合わせをして、また場内に戻り、年末年始用の食材を調達し、帰宅。 今年はどこも行かずに自宅で新年を迎えるので、おせちづくりに挑戦する予定。

ではでは、みなさまもよいお年をお迎えください。 

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氷の塊を細かく砕く機械
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ちゃんこ鍋の材料でも仕入れにくるのか、お相撲さんがお店の人と和気あいあいとお酒飲んでた。
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古いお札改修中。神社庁って普段どんな仕事してるんだろう。。
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綺麗な鮪。
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これがなくなっちゃうのね。。



 
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2014年大晦日から記録をつけ始めた読書メーターによると、2015年に読んだ本は合計95冊。感想をメモしたことは1度もないのだけど、一覧を見るとどんな本を読んできたかがぱっとわかるので、気に入っている。

さて、2015年、影響を受けた本のまとめ。

⚪︎食事への意識がちょっと変わった本
田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」
本来食べ物は腐る。腐らないのは、腐らないための加工がされてあるから。

資本主義から抜け出す生き方をしたくてパン屋になった著者が、パン屋が資本主義のど真ん中にある事実に直面する。そこから、少しずつ、資本主義に左右されない、パン作りの環境を整え、岡山県の古民家にパン屋を構える。

ミシマ社、やっぱりいいなあ。
ミシマ社つながりでは、この本もとってもよかったです。
偶然の装丁家 (就職しないで生きるには)

⚪︎小説、文学の底力を感じさせてくれた本
想像ラジオ (河出文庫)
東北大震災を描いた小説。これもう本当読んで欲しいです。途中から嫌な予感?がしてきて、どんどんその確信が強まっていく。もう涙が止まりません。嗚咽してしまった。

小説って、まさに読んでいる時間そのものの経験であって、説明しても伝わらないのがもどかしい。でも、ニュースや論評では絶対に伝えられない、そこからこぼれ落ちてしまう、ひとりひとりの感情や記憶を丁寧にすくいあげてくれるもの。小説にしか伝えられない、震災の一面を伝えてくれる。

⚪︎海外暮らしがしたくなった本
いつも異国の空の下 (河出文庫)
女ひとりの巴里ぐらし (河出文庫)
1950年代に単身渡米し、その後パリにわたってシャンソン歌手として活躍した石井好子さんの、海外生活が綴られたエッセイ。当時のパリのショービジネスの世界と、そこに生きる人々の生き様が描かれている。ヨーロッパの街に暮らしたくなった。

⚪︎生活習慣を変えた本
人生がときめく片づけの魔法
こんまり先生の「ときめき」をキーワードにした片づけ術との出会いは、もう本当に衝撃的。TIME誌で「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた「片づけコンサルタント」と、最初に耳にしたときは「???」とわけわからなかったけど、この1冊を読めばその活躍ぶりもすとんと納得。

幼稚園の頃から主婦向け雑誌オレンジページを熟読し、学校から帰るなりあらゆる収納術や片づけテクニックを試しまくり、大学生の頃に片づけコンサルとしてのキャリアをスタート。そんなこんまり先生の偏狭的までの片づけへのこだわりと愛が、この著書の随所に込められている。

こんまり先生いわく、片づけは「ときめくものだけを所有」し、「物の位置を決める」だけ。そして「1回で徹底的に」片づけを終わらせる。そうすれば、「2度と元の状態には戻らない」と力強く断言。

物の取捨選択の基準を「ときめき」と言い切るあたりも衝撃的だったけど、同じくらい印象に残ったのが、こんまり先生が「物」の気持ちを考え、「物」に感謝の気持ちを伝えるところ。

たとえば、衣服。衣服の本来の目的は、「その衣服を身につけている人を心地よい状態に保つ」こと。その人が衣服を身につけている間こそ、衣服が本来の仕事を行っているとき。なので、その人が家に帰り、その衣服を脱いだあと、衣服は本来の業務から解放され、休むべき時間。なのに、脱いだままぐしゃぐしゃにして放っておかれたり、ぎゅうぎゅうに箪笥に詰め込まれていては、せっかくの休息時間に休むことができない。衣服が次の出番までリラックスして休める状態にしておいてあげるのが、その衣服の片づけ方法として正しい。

それから、物を捨てることへの罪悪感についての独特な解釈も新鮮だった。もうときめかないのに、もったいないからとだらだらその物をとっておくのはよくない。それは、その物がもうあなたに対してもっていた本来の役目を終えた、ということ。だから、ちゃんと手放す。そうすると、めぐりめぐって、その物はまた次の役目につくことができる。そして、その物を所有していた間、あなたが大事に扱ってあげていれば、あなたのもとを離れたあと、その物はいかにあなたが素敵な人であるかを世界に向かって語るから、あなたにもいいことが訪れる。

と、多少強引なこんまり先生流のロジックも、この本を読みすすめていくうちに、しっかりとした説得力をもって、せまってくるようになる。本の価値は、読む前とあとで、自分が何かしら変わっていること。こんまり先生のこの本は、まさにその1冊!

この本が響いた人は、以下の本もおすすめ。この3冊で、物を買うこと、所有すること、捨てること、に対する意識が確実に変わりました。
フランス人は10着しか服を持たない~パリで学んだ“暮らしの質"を高める秘訣~
服を買うなら、捨てなさい

⚪︎仕事に役立った本 
これであなたも英会話の達人―通訳ガイド直伝!今すぐ使えるネタ30 (祥伝社黄金文庫)
なんといってもこの1冊!通訳案内士歴25年の著者が、外国人観光客との会話に使える30ものトピックを日英織り交ぜて紹介してくれている。先輩ガイドさんに教えてもらった1冊なのだけど、この1冊で初ツアーを乗り切ったといっても過言ではないくらいお世話になっている。ツアー前には毎回読み返し、ツアー先にもお守りのように持参!

何が素晴らしいって、どんなトピックを話したらいいかぴんときてない新人には、まずこのトピックの一覧そのものだけでも、ものすごくありがたい。たとえば、「天皇と将軍」「アナタの宗教は?」「御利益と法事」などなど。もう毎回必ずといって説明しているのだけど、そもそも最初はここらへんのネタがお客さんに興味を持ってもらいやすい、というのもわからなかった。

自分なりに読み込み、実際にお客さん相手に話してみて反応を見て、内容を少しずつバージョンアップしていく。オリジナルバージョンのネタ帳を作れるぐらい、お客さんにうける話術をマスターのが目標のひとつです。
 
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